パッシブデザインで、太陽と風と暮らす(広島編)

WRITER
 
この記事を書いている人 - WRITER -

夏の暑い日、木陰で涼むのはとても気持ちいいものですよね。上の絵は江戸時代に描かれたものですが、夏の夕方、夕顔の棚の下で家族が夕涼みをしている様子です。夕顔の葉が陽射しを遮ってくれ、むしろの下からは冷やっとした土の冷気が感じられる、一日の暑さを忘れるような心地よい時間を過ごしているのが伝わってきます。少しの工夫で暑さ・寒さを上手にコントロールすれば、おおがかりな機械を使わなくとも心地よい時間を手に入れることが出来るのです。そんな自然と共に暮らす「パッシブデザイン」についてまとめてみたいと思います。

Contents

パッシブデザインとは

建築的に言えば「地域の気候風土や自然の恵みを最大限活かし、年間を通じて快適な室内環境をつくる設計思想・デザイン手法」とあらわせるでしょうか。

簡単に言うと、「その地域の太陽・風・自然のエネルギーをうまく使い、コントロールして心地よく暮らすための建物の工夫」のことです。その土地にある自然のエネルギーをうまく使うことが出来れば、機械の力にできるだけ頼らず、夏涼しく、冬あたたかい、省エネで健康的な暮らしを実現することが出来るのです。まず建物の工夫で自然から得られる心地よい「涼しさ・あたたかさ」をできるだけ確保し、足らない部分だけを機械の力で補っていくのが正しいエネルギーの使い方、より心地よい暮らし方であるという考え方です。

 

パッシブデザインの要素は大きく分けて

・昼のパッシブ - 太陽光による「明るさ」の獲得

・夏のパッシブ - 軒・庇・通風・樹木などによる「涼しさ」の獲得

・冬のパッシブ - 太陽の熱などによる「あたたかさ」の獲得

などがあります。

 

太陽や風をうまく取り込むには、その土地の条件-地域的な日射量や風の向き、隣地の建物の影響などをしっかりと把握することが不可欠です。そしてその条件をもとにシミュレーションによって得られるエネルギーを検討することが大切です。設計には手間がかかりますが、パッシブデザイン=建物の工夫で得られる「明るさ・涼しさ・あたたかさ」は機械で得られるものよりはるかに心地よいものです。

パッシブデザインは昔からある

「パッシブデザイン」というと最新の考え方で、小難しいものに聞こえますが、実はそうではありません。ずっと昔から日本の住宅(民家)で培われてきた手法なのです。先ほどの絵に出てきた夕涼みの場所もそうですし、伝統的な民家によくみられる夏の太陽をさえぎる深い軒や冬の陽だまりをつくる縁側なんかは代表的なパッシブデザインなのです。現代でいう「パッシブデザイン」とはこれら古くから培われた地域に根差した設計手法を現代の住まいに応用させながら、シミュレーションなどの新しい技術により再び進化を始めたものなのです。伝統知識と現代技術をつなぐのが「自然の力」だというのも面白いものです。

夏のパッシブ〈パッシブ・クーリング〉

夏、家の中が暑くなるのはどうしてでしょうか。当たり前ですが外が暑いからです。その熱がどこからともなく入ってきてしまうからです。古い土蔵に入ったことがあるでしょうか?中に入ると夏でもひんやりと感じられます。これは土蔵にほとんど窓がなく、分厚い土で覆われており熱が入ってこないからです。涼しく暮らすために、パッシブデザインで目指すことは、

①熱が内部に入らないようにすること

②涼しい空気を通し、暑い空気を追い出すこと

シンプルなこの2点です。そのために色々な工夫が考えられています。

①について最大の敵は太陽の日射です。太陽光が直接入るのを防ぐことが最大の防御になります。古民家に備えられている大きな軒や庇はまさにこのためで、「夏をむねとする」ための大切な工夫です。さらに現代ではルーバーやシェード、緑のカーテンなど様々な日射をさえぎる方法を選択することができます。陽射しの入る南側に庭を設け木を植えることもとても効果的な方法です。家の条件に合う方法で太陽光の侵入を防ぐことが第一です。

また、熱は太陽光として直接入ってくるだけでなく、暑い空気に触れている屋根・壁・窓といった部分からもじわじわと進入してきます。これを熱伝達といいます。壁や屋根からくる熱は日射を防ぐ軒や庇のように物理的に防ぐことはできません。その時に活躍するのが〈断熱材〉なのです。断熱材は熱を通しにくい素材でできており、屋根や壁から入ってきた熱が内部へと伝わっていくのを防いでくれるのです。先ほどの土蔵の分厚い土壁がこれにあたります。現代では土壁が希少になってきており、繊維を固めたものや、発泡スチロール状の断熱材が主流になっています。断熱材の性能は密度と厚みで決まるということだけ覚えておいてください。また、窓は各部材の中で最も熱が入りやすいところです。ガラス一枚(ペアガラスだと2枚ですが)で外とつながっているのですから考えてみると当然です。窓の性能は窓枠の素材とガラスの構成の組み合わせで決まります。そして窓の性能を上げることが最もコストパフォーマンスのよい断熱化の手法であると言われています。断熱性能を上げる時には一番に意識するとよいでしょう。

 

②については実は少し複雑です。考え方はもちろん単純で〈通風〉を確保するということです。気温が高くとも風が通ればとても涼しく快適に感じられますよね。家の中に複数の窓を設け風の通る道を意識的につくることで通風を積極的に行うことが②パッシブの基本です。しかし、例えば近年の暑さのピーク時ではどうでしょうか。外気温が高すぎて、風が入ってもその風がとんでもない熱をもった空気では、通風の効果以上の熱が入ってしまい、逆に暑くなってしまうことが起こりえるのです。なので、②では〈涼しい風〉を通すことが重要になるのです。外の空気は暑いのにじゃあどうするの?となりますが、一つは夜間の涼しい風を採り入れることです。何も一日中通風に頼ることはありません。昼は窓を閉めて①のように熱を防ぎ、夜に涼しい冷気を取り入れれば一日を通して快適に過ごすことが出来ます。また、昼間でも水辺の近くや山の近くといった良い条件があれば冷やされた涼しい空気を取り入れことが可能になります。周辺の環境・微気候をしっかりと観察し、活用することが上手なパッシブデザインです。また、庭に木をたくさん植えることにより周辺空気の熱量を下げることも有効な手段です。

冬のパッシブ〈パッシブ・ヒーティング〉

冬、部屋が寒いのはなぜでしょうか?先ほどと同じですね、外が寒いからです。夏とは逆に冷たい外の空気があたたかい熱をどんどん奪ってしまうからです。ですので冬のパッシブは夏とは逆のことを考えます。

①熱ができるだけ入るようにする

②熱ができるだけ逃げないようにする

この2点を考えます。

①夏でもふれたように熱を与えてくれるのは太陽の日射です。冬は夏とは逆にできるだけ太陽光が直接内部に入るようにします。部屋を暖かくするためには熱源が必ず必要であり、太陽は最大の熱源です。

②これは熱の動く方向が違うだけで、実は夏と同じ考え方です。夏は外の熱が内部に入ってくる方向でしたが、冬は内部の熱が外に外に逃げていく(伝わっていく)方向です。それを防ぐには?そう、夏と全く同じですね、〈断熱材〉によって熱の伝わるのを防ぐのです。よく勘違いされることがありますが、断熱性能を上げることは、夏にも冬にも快適性を高める効果があるのです。また、太陽の日射を入れることによって取り込んだ熱をため込む方法もあります。熱容量(熱を蓄える力)の高い素材-タイル、コンクリート、レンガなど―に陽射しをあてることによって熱を吸収させると、夜、日が落ちてからもゆっくりと熱を放出してくれ、室温の低下を緩やかにすることが出来ます。

夏をむねとすべきか、冬をむねとすべきか

ここまで読んでいただいた方はお気づきかと思いますが、実は夏と冬のパッシブでは矛盾したことを言っています。片や太陽光を入れろ、片や太陽光を入れるな。片や熱を入れろ、片や熱を入れるな。では一体どちらを優先すべきなのでしょうか。昔から「夏をむねとすべし」といわれていますし、近年の記録的な猛暑を考えるとこれは正しいように思えます。しかし、近年大きな問題となってきているヒートショック(冬期室内での温度差による脳梗塞などの発生事象)のことを考えると冬をおろそかにすることもできません。やはりどちらも捨てることはできないのです。両者を共存させるのは難しいことですが、それを実現することがパッシブデザインの肝なのです。例えば太陽光の問題では、ポイントは太陽の動きにあります。夏は太陽が高いためかなり上から日射が入ります。逆に冬は太陽の高さがぐっと低いので、低い位置から日射がやってきます。シミュレーションによって太陽の角度を確認しながら、軒の出や庇の長さを調整することによって、うまく夏の直射光を防ぎながら冬の陽射しを取り込むようにコントロールすることができるのです。自然の動きをきちんと把握して夏にも冬にも自然の力を活用できるようバランスをとった設計をすることこそ、本当のパッシブデザインなのです。夏に対しても冬に対しても断熱性を上げるというのは共通ですが、高い技術を持ったパッシブデザイン設計者なら冬の熱をたくさん入れるためにガラスの性能をわざと少し落とすなどという微妙な調整まで行います。パッシブデザインは考え方は単純ですが、実は奥の深い技術でもあるのです。

 

まとめ

パッシブデザインは特別なものではなく、取り入れやすい工夫であるということがお分かりいただけたでしょうか。自然の力はお金もかかりませんし、とてもエコな工夫です。パッシブデザインを取り入れるということは自然の力をよく考えるということであり、自然と共に暮らすという意識を持つことにつながり、それはやがて地域に暮らす愛着にもつながっていくのだと思います。ぜひあなたの家の計画にもパッシブデザインを取り入れていただければと思います。

ポイント

・お昼は自然光を取り入れる

・夏は陽射しを遮る

・風の通り道をつくる

・冬は太陽の日射を取り込む

 

このコラムが皆さんの参考になれば幸いです。それでは楽しい家づくりを!

 

 

この記事を書いている人 - WRITER -

- Comments -

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Copyright© 株式会社田村建設 , 2020 All Rights Reserved.