生き残る建築

四国・高松にある「旧香川県立体育館」をご存じでしょうか?
建築家・丹下健三さんの設計された【船】をイメージした体育館で、その保存を巡って業界では今、話題になっています。
建設から60年を超え、耐震改修の必要性、そのための莫大な予算のため、行政では解体を軸に検討が進められていました。
しかし、そのモダニズムを代表する作品性から、解体に「待った」がかかり、民間での買取・再生が進められそうなのです。
実は近年、同時代のモダニズム建築が同様の理由から解体されたり、保存の議論が進められているのです。
有名な所では建築家・黒川紀章さんの「中銀カプセルタワービル」が解体されたのが記憶に新しいところです。
こちらも保存の話がずいぶん出ましたが、さすがに銀座8丁目という立地とその規模からくる大きな経済の波に打ち勝つことはできませんでした。
逆に残されたものもあります。
建築家・遠藤新さん設計の「旧加地邸」が代表的でしょうか。
遠藤さんはあのフランク・ロイド・ライトのお弟子さんで、旧加地邸にも各所にその影響が感じられます。
10年ほど前の保存活動をされているときに一般公開があり、見に行かせていただいたのですが、とても素晴らしい住宅で、これが解体されるのは忍びない、とつくづく思いました。
住宅とは言っても、葉山の豪邸ですから、なかなかその保存も簡単ではありません。
土地も維持費も莫大ですし、どんな名建築であっても、遺産相続の際にそれを理由に手放される方が多いのです。
この旧加地邸は新装され「宿泊施設」として継承されています。
やはり単純に個人の住まいや別荘として使うには維持費がかかりすぎるので、よほどの力のある人でないと保持はできないでしょうし、そうなるとその存在は知る人ぞ知るものとなってしまいます。
宿泊施設であれば、所有者も経済的に動かしながら維持できますし、何より一般の人でも名建築に触れるチャンスが生まれます。
僕らも体験できるし、建築の魅力をたくさんの人に知ってもらえるという意味でも、「宿泊施設」というのはとても良い手段なのではないかと思います。
宿泊施設としての要求に合わせて以前の姿から一部変更はされているようですが、元の建物の魅力はそのままに改修されており、その魅力をたっぷりと楽しむことができます。
決してお安い金額ではありませんが(というかめっちゃ高いですが)、建築好きにはたまらないお宿と言えます。
僕もいつか、一度くらい泊まってみたいとおもっております。(いつになるかわかりませんが。。。)
このお家、実は「岸部露伴は動かない」という荒木飛呂彦氏原作のTVドラマでも、主人公・岸部露伴の住まいとして採用されています。
ファンならニヤリとすること請け合いです。
こんな風に「宿泊施設」として再生された名建築は実はいくつかあって、
三重県にある旧上野市庁舎は建築家・坂倉準三氏設計の建物ですが、官民連携という形で「旧上野市庁舎SAKAKURA BASE」として再整備されており、その中に「泊船 HSKUSEN」という宿泊施設がつくられています。
また北海道・釧路にある建築家・毛綱毅曠氏の設計された医院も「霧ノ音 -KIRI NO OTO-」という名前で宿泊施設として開放されています。
実は、最初に話した「旧香川県立体育館」も、宿泊施設としての再生が、可能性のひとつとして取り上げられています。
なんとかうまく再生の道が開けると良いのですが。
どんなよい建築でも、様々な状況・条件があり、必ず残すことができるとは限りません。
しかし、残された建築はすべからく多くの人に愛された建築です。
これは市井の小さな住宅であっても同じです。
時を超えて残されるお家は、住まい手に愉しい毎日と思い出を残すことのできた、愛されたお家です。
ひとつでも多く、残されるお家をつくっていきたいものです。