古民家をよみがえらせる。
先日、大工仲間の「小島工務店さん」と協働して古民家の改修工事を行いました。
数十年たった立派なお家でしたが、その一部を改修し、ご夫婦2人の暮らしの場を整えました。
間取りはよくある田の字型のお家で、仏間と続き間が南側の一番良い場所にある典型的な民家のつくりでした。
住まい手さんが言われていたのは
・とにかく寒い
・コンパクトな住まいにしたい
・ものがきちんと納められるようにしたい
などなど。
構造的に無理のないよう、田の字のプランを活かしながら、断熱をしっかり行い、あたたかく過ごせる「古くて新しい住まい」を目指しました。
今回は屋根を残して壁はほぼスケルトンの状態からスタートしたので、サッシも樹脂サッシに交換し、天井にはグラスウール280mm、壁にグラスウール100mm、床下にはフェノバボード90mmなど、しっかりとした断熱補強をすることができました。
改修工事は、解体して初めてわかる部分もあり、ひとつひとつ課題をクリアしたり、図面を修正しながら進めていく必要があります。なかなか手のかかる仕事です。ですが、その途中で楽しいことも出てきます。外壁をばらすと、これまで見えていなかった、隣に建つ倉庫の外壁の杉板張りの美しい姿が見えてきました。しだれかかったような柿の木の雰囲気もとっても素敵でした。さっそくこの風景を取り入れることに。
(古民家改修では床を全面的に更新することが多いです)
古民家らしいしっかりとした梁桁で組まれており、小島さんも上手な大工さんがたてている、と仰っていたように、構造部分はできるだけ活かし、一部傷んだ柱を交換するようにし、火打ちを追加したり、壁・天井共にラス板で下地を組むことで、水平面をがっちりと一体化させ、耐震性を高めています。この上から左官さんに仕上げをしてもらいました。
(こちらの天井は板張りとなります。お庭の景色も抜群でした)
大工工事で約半年、仕上げ工事で約2か月と長期の工事となりましたが、大工さんの素晴らしい仕事もあり、古民家の風情を残しながら新しい暮らしを支える「古くて新しい住まい」になったのではないかと思います。
(キッチンからDKをみる)
天井には杉板、床には桧フローリング、壁には珪藻土と自然素材で包まれた空間に、障子や格子など和を感じられる設えとなりました。住まい手さんが探してこられたペンダントライトが空間にマッチしてなんだか大正ロマンを感じます。この天井板、砂ずり天井と言われる工夫がされており、表面に胡粉を細工してあり、白っぽく上品なイメージに仕上がっています。ここにも大工さんのこだわりのひと手間がかかっています。
(障子の向こうにはお庭が広がる)
(月見雪見障子 / 障子を上にも下にも開けることができる)
障子がやはり印象的ですが、実はこの障子、大工さんが保管されていた貴重なもの。月見雪見障子とでも言うのでしょうか、上下の障子をどちらも動かすことができ、上側を開く(月見)、下側を開く(雪見)と可変して楽しめるなかなか見たことのない障子になっています。かなり高い技術が必要だそうで、今はなかなか作れる人がいらっしゃらないとのことでした。気候や天気によって、お庭を様々に楽しむことができそうですね。
リビングには暮らしに合わせた造作家具をとりつけました。市松模様のような収納は、旦那さんの趣味のCDやDVDを納める場所。扉が動かせるようになっていて、しっかり収納できます。お孫さん達は早速ぬいぐるみを隠して遊んでいました。これからいろんな楽しみ方が生まれそうです(笑) 旦那さんの趣味のオーディオは欅のカウンターと格子扉で納めています。ここはもともと床の間があったところ。飾るものが現代的になったようで面白いですね。勝手口の前には格子壁をたてて、外からダイレクトに見えないように。ちょっとしたことですが、これだけでずいぶんイメージが変わりますね。
キッチン周りにも小さな工夫を。背の高い引き出し式の収納は、お醤油やお酒など背の高いびん類もまとめて納められるます。キッチンのそばには小さな家事デスクを設置。柱がなくスッキリとした納まりになっていて、欅の板が映えるようです。よく見るとコーナーが丸くしてあるのも、大工さんのひと手間ですね。
寝室は落ち着く灯りをということで、間接照明でまとめています。背面には奥行きのあるカウンターを設けており、本やタブレットなど、余裕をもって納められるようになっています。夜の時間をこの部屋で過ごすことが多くなれば、このカウンターに手元灯となるスタンドライトを置いて過ごしていただくことも考えてあります。ちなみにこの障子を開けると、工事途中で見つけた素敵な風景を眺めることができます。
この他にも、パントリー、ウォークインクロゼットなどしっかりと収納も設けられており、72㎡の中に暮らしがしっかりと詰まっている住まいとなりました。
先日大工さんから、住まい手さんが、『やっぱりあったかいのが一番うれしい』とおっしゃっていたと伺いました。古民家に暮らす一番のネックはやはり「冬の寒さ」です。逆に言うと、冬の寒ささえ克服できれば、古民家での暮らしには大きな魅力があります。実際に、古民家に暮らしたいという相談をたびたび受けることがあります。しかし、建物の状態にもよりますが、多くの場合、いくつかの箇所に修理が必要だったり、本質的な性能改善を行うにはスケルトン状態まで解体しての作業が必要となります。そのため、やはり時間も手間もコストもかかります。この山を越えていくためには、やはり古民家に対して、今住んでおられるお家に対しての愛着が大切になると思います。
以前のブログでも書いておりますが、既存の建物をリノベして使い続けるか、解体して新築するべきか、は所有者にとって大きな問題です。
「古民家再生」は建築分野におけるSDGsの最たるものだと思いますし、前の世代からの贈り物を大切にすること、次代につないでいくことは、かけがえのないことだと思います。
古民家での暮らしに魅力を感じている方、今お住まいの古民家に住み続けたいと思っている方は、ぜひ一度ご相談いただければと思います。